極甘同居~クールな御曹司に独占されました~
清々しい思いで長谷川さんの後姿を見送ってから、私も事務棟へと戻り始める。

建屋脇でふと立ち止まり、こんもりと茂った木々を見上げた。
木々の梢の上には今出てきたばかりの工場棟の屋根が顔を出し、左手に逸れる路地の奥には、わずかに駐輪場が見えている。


〝防塵服を着て、一心に液晶を見つめている姿が忘れられなかった〟
〝俺の隣で、俺を支えてくれ〟

泣いたり笑ったり落ち込んだりしながら奮闘してきた私のホームグラウンド。
そして、彼と出会い、結ばれた大切な場所。


一流の技術者になること。
世界を変える液晶ディスプレイを作ること。

私の夢は彼の夢に繋がっている。


だから私はこれからもここで、そして彼の隣で、彼を支えていく。


「森下!」


薬指のビーズの指輪を日にかざして誓いを新たにしたところで、いきなり頭上から横山課長の怒鳴り声が降って来た。
目をすがめて見上げると、三階廊下の窓から顔が出ている。


「はよ戻ってこんか!」


「今戻ってるところですよ、もう!」


二十七歳、スッピン作業服。
左手には恋する人から贈られた永遠を誓う指輪。


新型ディスプレイ量産成功の記者発表をする高梨さんを思い浮かべ、私は木漏れ日を見上げて微笑んだ。





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