結婚しても恋をする
宮内課長が簡単にふらふらする人なら、幻滅する癖に。
身勝手にジレンマを募らせて遠くから観察する日々が続き、ほとほと困り果てていた。
わたしは一体誰とどうなりたいのか。相反する想いが渦巻き手に負えない。
今週も終盤へ向かいつつある木曜日の遅い時間、給湯室で水を汲んでいると、廊下からエレベーターの到着を知らせる明るい音が届いた。
コツコツと歩き始めた靴音が次第に近付き、吸い寄せられるように入口を見遣った。
一度通り過ぎた人が、一歩後退して顔を覗かせる。
合わさった目を瞬いていると、宮内課長の瞳は細められ、目尻に皺を寄せて口を開いた。
「何もない」
咄嗟に何の反応も示せないままに、遠のいて行く足音をただ聞いていた。
「──……」
染まってしまった頬を思い、首筋に掌を充てがう。
頭をもたげ大きく溜息を吐き出すと、瞼の裏に煌めく笑顔がちらついた。