結婚しても恋をする

彼女が戻って行ってから、補足するべき事項を思い付き、席へ向かう。

「さっきの件ですけど、支店管轄と依頼先が合致してない地域があるので、それを書いておいた方が良くないですか?」
「えっ、どこどこ」

「南支店は、南センタだけじゃなくて、中央センタに依頼しないといけない地域があるじゃないですか」
「あー、そうだったよね。書き足しておくわ」

メモに目線を落とす頭頂部の奥、ディスプレイに管理簿が開いている。
じっとりと見つめてやると、わたしの眼差しに気付いた彼女が、さっと画面をスクロールした。

……隠した。
余りに解りやすく、疑惑が確信に変わった瞬間、身体の中に沸き上がる憎悪に行き当たった。
ひとまず落ち着こうと、特に行動は起さずに自席へ腰掛けた。

彼女にしてやられたことなんて、もう何度目か解らない。
人を出し抜いておいて、平然と自分の仕事だけ良く見せようとする。
こんな人の為に、どうして力を貸してやる必要がある。
仕事の遅い彼女の、残った依頼書を日々さばいているのはわたしだ。
感謝している振りをして、体よく使われているだけなのに。

苛立たしく、マウスをクリックする音が大きくなり、思い至った。

わたしは相手の為ではなく、自分が良く思われたいが為にお節介を焼いているのでは?

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