結婚しても恋をする
水川さんに対してだけではない。郷ちゃんにしたって、誰に対してもそうなのだ。
訝しんだ瞬間から、わたしの人生は何の為に回っているのだろうと、根幹について疑問を抱き始めてしまう。
仕事は住宅ローンの為で、住宅は結婚生活を維持する為で、結婚は彼を傷付ける為に回っている──脳内スパイラルに陥り、覚えた嫌悪感は誰に向いたものなのか、足が竦み茫然自失で思考は停止してしまった。
どうやってその後の業務を切り抜けたのか、我に返ると終業を迎えていた。
震えそうな手首を押さえ、帰り際無意識に宮内課長へと視線を滑らせた。
しかし目は合わなかった。
覚束ない足元を引き摺るように、どうにかビルを後にする。
いつしか痛み出したらしい腹部を抱えながら。
──解っていた。宮内課長はわたしの拠り所にはなってくれないことを。
当然ながら課長がわたしの人生何とかしてくれるはずがないし、家族だって助けてはくれるかもしれないが、最終的にはわたしが自分の足で立って生きて行くしかないのだ。
だけど、今日は家にも実家にも帰りたくない。
ひとりになって、気が済むまで泣いてみたい衝動に駆られた。
何処へ向かおうとしているのか解らない現状に一層不安を募らせながら、ビジネスホテルにでも泊まろうかなどと巡らせていると、古民家カフェに貼られた美術館のポスターが目に留まった。