結婚しても恋をする
誰にも歓迎されない茨の道へ、敢えて行きたいような衝動に突き動かされるのは、何故なのだろう。
わたしはもう“藤倉”じゃない。
だけど……今日だけ、今だけ。“藤倉”に戻らせて──……
「……主人が居ないって、嘘なんです」
宮内課長を真っ直ぐ見つめながら、握った右手に力が篭った。
見上げたまま足が一歩、また一歩前に出て、距離が縮まる。
「本当は……旦那と上手く行かなくて……帰りたくなかったんです。わたし──……」
眉を歪めて口にした瞬間、解った。
背負っている荷物が重くて、やり切れなさを誰かに解って欲しくて、一緒に持ってくれる人を求めていたことを。
肩に手を置かれると、胸が鳴り身を縮こまらせた。
「……旦那、待ってんねんやろ? 帰りなさい」
瞳は熱を孕んで見えるのに、迫ったわたし達の間隔をその手で引き離す。
静かに切り返して来た顔は臆することなく、言葉を遮った。