結婚しても恋をする
後ろ暗さを抱えたまま、怖々自宅へ足を踏み入れた。
「……ただいま……」
まだ21時台だが灯りが点いていない。
もう眠ってしまったのかと、ブーツのファスナーを下げながら巡らせる。
宮内課長が席を立った隙に、すかさずスマホをチェックして連絡は入れていた。
既に郷ちゃんから報告を受けた帰宅時間を迎える頃だったが、指示だけは返しておかないとメッセージ攻撃が止まなくなってしまう。
『急に会社の人に誘われたので遅くなります。冷凍庫のハヤシライスを食べて下さい。』
然して間は空かずスタンプが返っており、特に疑いを持たれたとは感じなかった。
そもそも嘘は吐いていないのだから、堂々としていれば良いはずだ。
しかし、布団に潜っているという予想に反して、彼はベッドに腰掛けていた。
「……おかえり」
掠れたような声が物々しく響き、急激に速まった心音が身体に大きく轟いた。
「……ごめんね……っ? 急に飲みに行こうって話になって……ご飯、食べた……?」
言い訳を並べるが、暗がりの中、表情ははっきりとは窺えない。
近寄るとこちらへ流された視線に捕えられ、身体が強ばる。
目に鋭さが見えるのは、やましさがあるからなのだろうか。