結婚しても恋をする
昇進は見込めない。本人が望んでいないからだ。
新人はまず営業部に配属されることが多い中、余りにも契約を取れないので総務部へ異動となった。
それでも主任になれただけ良かった。後は定年まで勤め上げてくれれば良い。
女遊びにもギャンブルにも現を抜かさず、真面目に家に給料を入れてくれるのだ。そこは良く出来た旦那さんだと思う。
「どうでもいいよ、そんなの。とにかく皆からあれこれ言われない方が大事。仕事が出来ない奴だと思わせておいて、なるべく俺を頼って来ないように仕向けておかないとさ」
「……ハードルを極限まで下げるってこと……?」
「そう。失敗しても許して貰えるように予防線張ってる」
「……まぁ、わたしの上司じゃないから良いや。君が生きやすいならそれで」
舌平目のムニエルにナイフを入れながら、呆れ顔で笑うと、つられたように笑顔になる。
なんて幸せな時間なんだろう。
一体何処に問題があるのか理解出来ない程の、温かなひと時。