結婚しても恋をする
「はいっ、ふたりです。では、10分くらいで伺いますので」
4件目で空いている店に巡り会い、外を歩き始めた。
前を行く人を見上げると、段々と馬鹿馬鹿しくなって来た。
「……」
衝動に駆られて袖口を摘むと、弾かれたように振り返る。
「……ばーか」
唇を尖らせ睨み上げると、薄く微笑んだ。
「寒い。ばか」
どれだけ憎まれ口を叩かれてもペースを崩さない彼の手を掴むと、冷たい指先が握り返した。
連れられた店はやはりお洒落な雰囲気を漂わせていたが、カメラに収める気分には到底なれなかった。
しかし席を案内されると折角食事へ来たからと、幾らか気分が上を向く。
「此処、郷ちゃんの奢りだからね」
「はーい」
メニューを開きながら、何故か楽しそうに笑った。
食事は美味しく、次第に酒が回ると憂鬱も薄れて行く。
「この変な色のやつが一番美味しい」
可笑しな物言いに、思わず吹き出してしまう。
「……はははっ。変なのは君だよ」
「変な奴だよ」
わたしの言葉を繰り返すと、目元を柔らかく綻ばせた。
──もういいや。
それでもこの人が、わたしの大切な旦那さんなんだから。
店を出ると郷ちゃんの細腕に抱き付き、駅までの道程を進む。
これがわたしの日常で幸せなんだと、噛み締めた。
ずっと繰り返す。
何度もあなたに恋をする。
馬鹿で愚かだから、きっとまた忘れる。
目の前のことに囚われて、わからなくなる。
それでも、また思い出すよ。
何度も何度も。
END.
Thank you so much !


