心をすくう二番目の君

まずはレポート発表会の当日を迎えた。
暫くぶりに開襟シャツに袖を通し、全身鏡の前でスカートスーツの身なりをチェックした。

余裕を持って、普段よりも1本早い電車で出社する。
ビルへ足を踏み入れた時点で、既に身体は程よい緊張を帯びていた。
設計室へ入ると、珍しい出で立ちに、日頃然して口を聞かない男性社員から声が上がる。

「あれっ、小椋さん何の日~?」
「レポート発表会があって……」

笑顔を作っている間に、自席の前まで来た。
前へ向き直ると、やや驚いたように睫毛を瞬かせている斜向かいの人と目が合ってしまう。

「……」

一瞬強ばった顔を、下方へ逸らした。
あまり自然に出来なかったかも知れないと気を揉む。


10時前に集合と聞いており、それまで通常通り業務に当たっていた。
ついディスプレイの隙間から彼の顔を盗み見てしまう。
時間が迫って来たので席を立ち、資料を持って出入り口へヒールの足を進めた。

「小椋さん」

背後から声が投げられて、肩が揺れた。
顔を見ずとも誰だか解る、心を捉えてやまないあの声。

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