心をすくう二番目の君
唯一

有地さんや山川さんの発言に翻弄されている間に下期に突入し、正社員として働き始めた。
すぐに見習いとして現場デビューを迎える。

「此処、押さえてくれる?」
「はい」

まずはレベルと呼ばれる高低差を測る機器を固定する三脚を押さえておく、といった簡単な、しかし重要な作業からスタートした。
慣れない外出や作業着に戸惑いながらも、指示をよく聞いて従っていく。


現況調査に赴きながら、これまで通りCADで図面を描く作業も並行する。
第1施工部の伊藤さんへ例によって内線を入れると、その回答に衝撃を受けてしまった。

『その件はちょっとややこしくなってて……射場係長が一任されてますんで。資料をお持ちかも知れないです』

唖然としながらも仕事に私情を挟む訳にも行かず、席まで出向く。
何度か姿は見掛けたものの、あの一件から口は聞いていなかった。

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