心をすくう二番目の君

「こっちが小椋《おぐら》さんと同じCADオペさんで、そっちの列が設計士。あぁ、あれがチームリーダーです」

初めて踏み入ったフロアの中を、突っ切るように颯爽と進む上司に続く。
課長の手に誘導されるがまま、前方を歩く人を目で追っていると、振り返った。
契約社員で入社して2年半、異動を命じられた部署でのファーストインパクト。

「中薗《なかぞの》です。よろしくお願いします」
「第1施行部から参りました、小椋 花澄《かすみ》です。お世話になります!」

生まれてこの方初めての異動の挨拶に、思わず力んでしまう。

「そんな緊張しなくても」

線の細いその人は、強ばらせたわたしの微笑みを見抜いて、綺麗な顔をくしゃっと崩した。
素敵な笑顔に、心臓を掴まれたような感覚に陥る。
やや重めの前髪の隙間から覗いた切れ長の瞳にじっと見つめられ、居たたまれずに耳に掛けていたミディアムヘアを下ろして隠した。


新年度が忙しいのは、この設計室も例に漏れない。
ひとまず午前中は自席の整理を言い渡されていたが、間もなく一段落着く。
廊下へ飲み物でも買いに行きたいと、恐る恐るカードリーダーへ入館証を翳してみたが、警告音が鳴ってしまった。
今朝は課長に付いて入ったが、どうやら不具合があったらしく、未だカードの使用許可については知らされていない。
すぐに背後から速足の靴音と、カシャカシャと何かが跳ねる音が届いた。

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