心をすくう二番目の君

「これ」

振り返ると中薗さんが立っていて、首から入館証を外すとこちらへ向かって差し出した。

「異動になった人、暫くカード駄目みたい。これで、行って来て」
「……わかりました」

何とも不便な話に思わず苦笑いを返してしまったが、繊細な目元と視線が絡むと何故だか心臓が波打った。
天井に灯るライトを後頭部に受けた顔には影が落ち、色っぽいと感想を浮かべる。
ストラップを握って受け取ると、頭を下げる振りをして視線を外した。

「……ありがとうございます」


相変わらずゆるい会社だと肩を竦めつつ廊下へ踏み出し、少し迷ってからカードホルダーを首に下げた。
何か違和感があり、手に取って改めて眺めてみる。
一般的なストラップではなく、革と思われた。ホルダーと繋ぐ金具に通され、バックルで留めてある。
先程の軽い音は、これが擦れた音だったのだろう。
割合自由な社風なので、各々の好みにカスタマイズしている人が多い中でも、珍しい。
使い込まれた、こなれた風合いがあった。
自販機のボタンを押しながら、興味本位で社員証を覗き込む。

「……『中薗 春志《ハルシ》』? ……」

声に出してみると、響きの良い名前だと思う。
イケメンがつい先ほどまで首から下げていた……などと考えると、少しばかり高揚した気分を自覚する。
存外ミーハーな己に溜息を吐き、ペットボトルから冷気が伝った指先で頬を扇いだ。

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