心をすくう二番目の君
実感

お互い黙ったままに廊下へ出て、下階へ向かう箱を呼び出し、乗り込んだ。
到着を知らせる軽快な音と共にエレベーターのドアが開くと、先に玄関を潜った中薗さんが、階段を降りながら振り返る。
宵闇を纏い始めた街をバックに、車道を過ぎ行く車のライトに照らされて、綺麗だった。

「何か食いたいもんある?」

特に先程のわたしの行動に対して触れることなく、口を切った。

「……何でも食べられます」

答えた自分の顔は、はにかんだような色が浮かんでしまった気がする。

「苦手な物聞いてるんじゃなくてさ。好きな物聞いてる」
「……」

気遣いが嬉しく、たちどころに染まった頬を感じ取る。
落ち込んでいた気分は、早くも幾らかは上を向いたようだった。

「じゃあ……揚げ物食べたいですっ」
「お、良いね。それなら酒飲みたいな」

首を縦に大きく二度振って、頷く。
中薗さんとお酒が飲める。舞い上がった心を自覚した。
浮かれた気持ちが透けてしまったのかも知れない。前の人が柔らかく綻ぶ。

「バルみたいなとこでも良い? 良いとこあるんだ」

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