心をすくう二番目の君

だって、簡単ではないと思っていたのだ。
わたしと中薗さんがふたりきりで食事へ行くなんていうことは。
何事かが起こるはずもなく、暫し会えなくなるものだと疑わなかった。

「大通り越えたらすぐで、そんなに遠くないから」

前を見据えたままに口に出した彼の横顔は、心なしか明るい表情に見えた。
勘違いしてはいけないと早る想いを自制しながら、一歩下がって後を続く。
頭で言い聞かせながらも、高鳴る鼓動が抑えられずにいるわたしは、あざとい女だろうか。
しかし同時に、この人の優しさは何処から来るものなのだろうとも、薄らと疑問が湧き上がっていた。


裏道を幾つか曲がり、現れた小ぢんまりした店は、外観から既に洒落ているのが解った。
彼の骨張った手がアンティーク調のドアを開くと、カランと鐘が鳴る。

「いらっしゃいませ。おふたり様でしょうか」

シンプルなシャツを腕捲りした男性店員が、笑顔で案内してくれた。
カウンターに通され、背の高いスツールに並んで腰掛ける。
いきなり距離が近過ぎる。触れ合いそうな肘をものともせず、平然とした中薗さんを余所に、途端心臓が音量を大きく上げる。

顔を合わせていられずに、テーブルに置かれたドリンクメニューに視線を落とした。
額に冷や汗が流れたように思える。

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