心をすくう二番目の君
「割と花全般好きですけど、街中で木蓮が咲いてたら、つい見ちゃいますね」
「へー……“花澄”だけに?」
思い掛けず名前を呼ばれ、持ち上げたカップもそのままにフリーズしてしまう。
何でもなさそうに少しばかり口角を上げた中薗さんの後方で、宵闇に浮かぶ桜の枝が揺れた。
「……花澄だけに」
へへっと笑ってこめかみを掻いたが、微かに耳の先が染まった気がした。
「……中薗さんも、“春志”って……」
もじもじと膝の上のカップと彼の顔を交互に見遣っていると、大きな声に遮られた。
「中薗ぉ!」
僅かに瞳を揺らしたように見えた彼は、声の主に反応して背を向けてしまう。
「お前、無茶振りのクレーム出てるぞー! 現場行けてないからネットの地図なぞって書いてってお願いしたんだって?」
「いやそれはスケジュール上、仕方なく……!」
会話の主導権を課長に奪われてしまい、敢えなく彼とのひと時は終了させられた。
背後で繰り広げられる楽しそうな笑い声が、くぐもったように耳をつく。
それは酒が回っているせいなのか、ビニールシートと接触している脚が沈み込みそうな錯覚に囚われた。
「……」
絞り出した勇気を思い、堪らず掌を握り瞼を伏せた。
まだ頬が熱い。どういうつもりで名前を呼んだりしたのか、我ながら戸惑っていた。