心をすくう二番目の君
前兆
そうは言っても、曲がりなりにも両想いだ。
嬉しいに決まっている。
休憩を挟もうと立ち上がった瞬間に、斜め前の人と視線がかち合った。
何でもない素振りで廊下へ出る。
周囲に感付かれないよう、好きな人と目を合わせる。
自然と頬が緩んでしまう、ささやかな楽しみだ。
上機嫌で御手洗を出て、ドアに向かって歩を進めていると、自販機の裏に現れた人影に腕を引かれた。
「きゃっ」
背後から抱き竦められて、耳元に被さった髪から爽やかな香りが鼻腔を掠める。
慌ててその顔を振り返る。
「中薗さ……」
「しっ」
胸元を交差する腕に捕らえられ、身動きが取れない。
わたしの髪に顔を埋め、長い睫毛を伏せている。
「誰かに見られたらどうす……」
「花澄、いー匂い」
制止され小声で反論を唱えたが、打ち負かされてしまったのはこちらだった。
……今さらっと、名前呼んだ……!
顔を真っ赤にして情けなく口をぱくぱくさせていると、何事もなかったかのように離れて行った。
「元気チャージ出来た。行って来ます」
悪戯な微笑みを見せて、男子更衣室へ入って行った。
席へ戻り予定表へ目を走らせると、中薗さんの欄には『外出』のマグネットが主張していた。
心臓に悪いので止めて欲しいとデスクの上で頭を抱えつつも、浮き立つ心が漏れ出ないよう気を配った。