そしてあなたと風になる
金曜日になった。

まひるが晴斗に連れられて来たのは、都内S駅近くのお洒落なイタリアンバル。

豊富なワインとイタリア料理はどれも美味しそうで、まひるはにこにこと店内を見渡した。

「親睦が目的だから、仲良しが隣は無しですよ!」

百花がすかさず、まひるの左側、壁際席をゲットした。まひるの正面が三月、百花の正面に晴斗が腰かけた。

出遅れた千尋は必然的に、まひるの右側の席となった。

乾杯をして、

晴斗と百花の留学時代の話や、櫻木兄妹と三月、晴斗とまひる、の幼馴染エピソードで盛り上がった。

最初からガンガンワインを飲んで騒いでいた晴斗と百花は、早々に潰れていた。

今は、テーブルに突っ伏して眠っている状態。

「やれやれ、世話が焼ける。僕がこの二人を家まで送るから、千尋はまひろさんを送ってあげて。」

三月は会計を済ますと、酔っ払い二人をタクシーに誘導した。

「いえ、私は一人でも大丈夫ですから。」

「いけません。大事な取引先のデザイナーに何かがあっては大変ですから。千尋、よろしくな」

そう、言い残して三月はタクシーに乗り込んでいった。



まひると千尋の間を爽やかな春風が通りすぎた。

「まひるさん、まだお時間は大丈夫ですか?」

千尋は、時計を気にするまひるに、ゆっくりと話しかけた。

「はい。ここから自宅まではそう遠くないですし、明日は休日ですから。」

「それでは、知人が経営するカフェバーがこの近くにあるんですが、酔いざましに行ってみませんか?」

さっきまでの千尋は、3人の話に相づちをうったり、百花と三月の会話に、時折突っ込みをいれる程度で、ほとんど会話をしていなかったと認識している。

『長文も話せるんだな』

そんな失礼なことを考えながら、まひるは千尋にエスコートされ、カフェバー"シャティ"のドアをくぐった。



「いらっしゃいませ」

黒いカフェエプロンをまとった男性が、カウンター内から声をかけた。

千尋は、カウンター席にまひるを案内した。

「千尋が女の子を連れてくるなんて初めてじゃないか?」

「うるさい。取引先のデザイナーさんだ」

まひるに着席を促すと、千尋も隣に腰かけた。

「諏崎まひると申します。」

まひるはマスターらしき人物に名刺を渡した。

「俺は千尋の高校時代の友人で栗田雅樹。まーくんって呼んでね。」

「まーくん、ですね。ふふ、わかりました。」

まひるは、チョコレートカクテルの"モーツァルトの午後"を注文すると

「化粧室お借りしますね」

と席をたった。



「すげー綺麗な子じゃないか」

雅樹はカウンターから身を乗り出して千尋にささやいた。

「中身も普通じゃないけどな」

「どんな風に?」

「カリスマデザイナー。デザイン会社社長、400ccライダー」

「なにそれ。イメージと違うな」

雅樹は顎に手を当てて首をかしげる。

「俺もまだ測りかねてる。」

今日で会って3日目。さっきの飲み会で昔話は聞けたものの、デザイナー"まひる"ですら素性は謎が多い。

「ただの取引先って関係なら俺にゆずってくんない?」

「だめだ。お前は軽すぎる。それに,,,。」

「それに?」

「お前でももて余すだろうな。」

まひるは究極のマイペースだと思う。周りの雰囲気に流されて何かを決めることはない。かといって、相手を不快にさせたり、必要以上に待たせたりもしない。

空気を読むのが得意というのか,,,。

千尋はまひるのことを純粋に知りたいと思った。


「あっちの席が空いたから移動しろよ」

雅樹は、海を眺めることのできる窓際の席を指差して言った。

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