そしてあなたと風になる
「まひるちゃん、こっち」
雅樹は、化粧室から出てきたまひるをテーブル席の方に案内した。
「わー、海が見えるんですね。夜景が綺麗」
まひるは、千尋の座るテーブル席に案内されるまま移動した。
「甘いカクテルが好きなの?」
注文したチョコレートカクテルを雅樹に差し出されると、まひるはそれを受け取りながら答えた。
「今日はワインがさっぱり系で物足りなかったので、最後は甘々でいこうかと」
「千尋とも甘々で頼むよ。」
「こら、調子に乗るな」
「ハイハイ」
雅樹は、手のひらをヒラヒラさせながら、千尋にウインクすると、奥のテーブル客に呼ばれて離れていった。
「失礼しました」
「千尋さんも敬語はやめましょうよ。私は年下ですし、今はお友だちの時間でしょ?」
カクテルに口をつけようとしながら、まひるが上目遣いに、じっと千尋を見つめた。
お互いに見つめ合うこと30秒。
先に目をそらしたのは千尋だった。耳まで赤くなっている。
商談相手と話をする時に、自分から目をそらすことは今ままでなかった。弱味を見せたら敗けだと思っているからだ。
商談相手は別だが、プライベートでは女性に対して淡白と言われており、自分から飲みに誘うことなどなかった。
なのに、何故か商談相手の"まひる"とこうして二人で夜景を見ながらお酒を飲んでいるなんて。
「じゃあ,,,そうさせてもらう。まひるさんもそうしてくれる、かな?」
「私の敬語はデホォルトなんですけど、努力しますね。」
ふふ、とまひるが笑った。
「まひるさんは、不思議な人だな。」
つい、口をついた言葉を拾って
「そうですか?よく言われます。」
「お嫌いですか?」
と、試すようにまひるが首をかしげる。
「いや、そんなことは,,,」
「ふふふ、ありがとうございます。」
まひるには、全く他意はないようで、美味しそうにカクテルをチビチビと飲んでは、夜景を眺めたりしていた。
『俺、振り回されっぱなしだな』
千尋は慌てて話を変えようとした。
「ところで,,,。」
「あの素晴らしい映像は、どうやって作りだしているのかな?」
「企業秘密ならスルーしてくれてもいいけど。」
まひるは、嫌がることもなく素直に答えた。
「イメージ作りをするためには、私なりのやり方があって、段階を経た作業が必要なんです。」
「例えば?」
「今回のクレセントシリーズに例にとると、まず、百花さんが紹介してくれたコスメの商品コンセプトをイメージしてストーリーを膨らませています。」
千尋は、まひるをじっと見つめたまま頷きながら続きを促した。
「クレセントといえば三日月。不完全な存在。満たされていない。大人に憧れる少女。成長していく女性とそこへ導く存在,,,。」
まひるの言葉だけで、千尋の頭の中にも映像が思い浮かんでは消えていく。
「これだけだと、イメージがかたまらないでしょ?」
だから、
「私は本物に会いに行くんです。」
まひるは窓の外を見上げて言った。
数秒の沈黙のあと、
「それ、俺にも見せてくれないかな。」
と、千尋は思わず口に出してしまっていた。
「えっ?デザイン構成の取材にですか?」
「あ、ああ、クライアントとして過程を把握しておきたいんだ。」
本当はそんなことは考えていない。純粋なまひるへの興味だ。
「明日の夜は、ちょうど新月から3日目の三日月なんです。天気は晴れの予報で、横浜の岡の上の公園から見あげる月を海をバックに撮影したいと思ってて,,,。」
まひるのことを知りたい,,,。百花にこの話を聞かせれば、一緒に行きたいと言い出すに違いない。
企画担当者が同席する方が、話がスムーズにいくこともわかっている。
しかし、会社専務という立場を抜きにして、千尋という一人の男として、その景色をまひると一緒に見たい。
「俺も一緒にいっていい?邪魔はしないから」
「ちいちゃんを連れていってもいいですか?」
ちいちゃんとはあの猫か?
突然、ちいちゃんと言われて、千尋は顔を背けた。
「この撮影にちいちゃんが必要なんです。」
千尋の幼い頃の愛称も"ちいちゃん"。
"ちいちゃんが必要なんです。"
自分が言われているわけでもないのに、千尋の胸は高鳴った。
「俺には意見する権利はないよ。」
「千尋さんの協力が得られるなら、もっとたくさんのことができるかも。」
嬉しそうなまひるの様子に、千尋は益々胸がキュッとなる。
意外な展開に、自分でも驚いたが、断られなくて良かった。
「じゃあ、夕方16時に櫻木コーポレーション本社へお迎えに上がりますね。」
千尋はぎょっとした。女性のまひるに迎えに来させるなんてとんでもない。
「俺が迎えにいくよ。」
「でも、私の車に機材をのせているので,,,。」
「ああ,,,それなら、せめて俺に運転させてくれるかな?」
「では、お願いします」
と、まひるは笑った。
下手な駆け引きはしない。
そんなところが可愛らしいとおもう。
三月の意図せぬところで、なんだか話はまとまったみたいだ。
雅樹は、化粧室から出てきたまひるをテーブル席の方に案内した。
「わー、海が見えるんですね。夜景が綺麗」
まひるは、千尋の座るテーブル席に案内されるまま移動した。
「甘いカクテルが好きなの?」
注文したチョコレートカクテルを雅樹に差し出されると、まひるはそれを受け取りながら答えた。
「今日はワインがさっぱり系で物足りなかったので、最後は甘々でいこうかと」
「千尋とも甘々で頼むよ。」
「こら、調子に乗るな」
「ハイハイ」
雅樹は、手のひらをヒラヒラさせながら、千尋にウインクすると、奥のテーブル客に呼ばれて離れていった。
「失礼しました」
「千尋さんも敬語はやめましょうよ。私は年下ですし、今はお友だちの時間でしょ?」
カクテルに口をつけようとしながら、まひるが上目遣いに、じっと千尋を見つめた。
お互いに見つめ合うこと30秒。
先に目をそらしたのは千尋だった。耳まで赤くなっている。
商談相手と話をする時に、自分から目をそらすことは今ままでなかった。弱味を見せたら敗けだと思っているからだ。
商談相手は別だが、プライベートでは女性に対して淡白と言われており、自分から飲みに誘うことなどなかった。
なのに、何故か商談相手の"まひる"とこうして二人で夜景を見ながらお酒を飲んでいるなんて。
「じゃあ,,,そうさせてもらう。まひるさんもそうしてくれる、かな?」
「私の敬語はデホォルトなんですけど、努力しますね。」
ふふ、とまひるが笑った。
「まひるさんは、不思議な人だな。」
つい、口をついた言葉を拾って
「そうですか?よく言われます。」
「お嫌いですか?」
と、試すようにまひるが首をかしげる。
「いや、そんなことは,,,」
「ふふふ、ありがとうございます。」
まひるには、全く他意はないようで、美味しそうにカクテルをチビチビと飲んでは、夜景を眺めたりしていた。
『俺、振り回されっぱなしだな』
千尋は慌てて話を変えようとした。
「ところで,,,。」
「あの素晴らしい映像は、どうやって作りだしているのかな?」
「企業秘密ならスルーしてくれてもいいけど。」
まひるは、嫌がることもなく素直に答えた。
「イメージ作りをするためには、私なりのやり方があって、段階を経た作業が必要なんです。」
「例えば?」
「今回のクレセントシリーズに例にとると、まず、百花さんが紹介してくれたコスメの商品コンセプトをイメージしてストーリーを膨らませています。」
千尋は、まひるをじっと見つめたまま頷きながら続きを促した。
「クレセントといえば三日月。不完全な存在。満たされていない。大人に憧れる少女。成長していく女性とそこへ導く存在,,,。」
まひるの言葉だけで、千尋の頭の中にも映像が思い浮かんでは消えていく。
「これだけだと、イメージがかたまらないでしょ?」
だから、
「私は本物に会いに行くんです。」
まひるは窓の外を見上げて言った。
数秒の沈黙のあと、
「それ、俺にも見せてくれないかな。」
と、千尋は思わず口に出してしまっていた。
「えっ?デザイン構成の取材にですか?」
「あ、ああ、クライアントとして過程を把握しておきたいんだ。」
本当はそんなことは考えていない。純粋なまひるへの興味だ。
「明日の夜は、ちょうど新月から3日目の三日月なんです。天気は晴れの予報で、横浜の岡の上の公園から見あげる月を海をバックに撮影したいと思ってて,,,。」
まひるのことを知りたい,,,。百花にこの話を聞かせれば、一緒に行きたいと言い出すに違いない。
企画担当者が同席する方が、話がスムーズにいくこともわかっている。
しかし、会社専務という立場を抜きにして、千尋という一人の男として、その景色をまひると一緒に見たい。
「俺も一緒にいっていい?邪魔はしないから」
「ちいちゃんを連れていってもいいですか?」
ちいちゃんとはあの猫か?
突然、ちいちゃんと言われて、千尋は顔を背けた。
「この撮影にちいちゃんが必要なんです。」
千尋の幼い頃の愛称も"ちいちゃん"。
"ちいちゃんが必要なんです。"
自分が言われているわけでもないのに、千尋の胸は高鳴った。
「俺には意見する権利はないよ。」
「千尋さんの協力が得られるなら、もっとたくさんのことができるかも。」
嬉しそうなまひるの様子に、千尋は益々胸がキュッとなる。
意外な展開に、自分でも驚いたが、断られなくて良かった。
「じゃあ、夕方16時に櫻木コーポレーション本社へお迎えに上がりますね。」
千尋はぎょっとした。女性のまひるに迎えに来させるなんてとんでもない。
「俺が迎えにいくよ。」
「でも、私の車に機材をのせているので,,,。」
「ああ,,,それなら、せめて俺に運転させてくれるかな?」
「では、お願いします」
と、まひるは笑った。
下手な駆け引きはしない。
そんなところが可愛らしいとおもう。
三月の意図せぬところで、なんだか話はまとまったみたいだ。