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「お弁当できてるよ」

台所に行くと、今日初めて顔を合わせたにも関わらず『おはよう』なんて挨拶もなく、バタバタと動きながら母は言った。

お弁当を有り難く鞄に詰め込む。

「お姉ちゃん、帰るの遅くなるならちゃんと連絡しなさいよ」

足早に玄関に向かう私に向かって母は手を止めず、顔もこちらを向けずに言う。

「わかってまーす」

母の口癖のようになった言葉にいつものように答え、玄関に置かれた『分厚い雑誌』を鞄に詰め込む。

弟は部活の朝練に行っているらしく、いつも会う事はない。

それでも火曜日は必ずこの『分厚い雑誌』を玄関に置いておいてくれる。

優しい奴だ。

週刊誌のそれを弟は月曜日に買ってくる。いつだったか借りた日から、こうして読み終わった火曜日は私にまわしてくれるのだ。

やけに重たい鞄と、ピンク色のビニール傘を持ち家を出ると、雨はひどくなっていた。


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