外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「帰り支度をするから、待っていてくれ。二人で家に帰ろう」


奏介は、気を取り直した様子で、スマートに執務机を回り込んだ。
黒い立派な革張りのチェアに腰を下ろし、手元の書類を片付け、パソコンをシャットダウンしている。
デスクを施錠して、黒いカバンを手に、チェアをギシッと軋ませて立ち上がる。


「七瀬、君の方も俺に話があると言っていたな。すまないが、家でゆっくり聞かせてもらっていいか?」

「はい。もちろん」


私の返事を聞いて、奏介はスーツの袖を軽く摘まんで、腕時計で時間を確認する仕草を見せた。


「……思いの外、早い帰宅になったな」


彼はそう言いながら、執務室を横切り、ドアを開けて私を促した。
私が廊下に出ると、奏介はドアを施錠した。
二人並んで廊下を歩き、エレベーターホールに入る。
ボタンを押すと、待つことなく一台の扉が開いた。
私たちを乗せたエレベーターが、三十階からノンストップで一気に降下していく中――。


「奏介、傘、持ってきた?」

「ん?」


私の質問に導かれるように、奏介は背を預けていた後ろの壁を、肩越しに振り返った。
ガラス張りになっているため、オフィス街を覆う真っ暗闇の重い空がよく見える。


「雨か。しまった、忘れた」

「よかった」


わずかに顔をしかめた奏介にそう呟くと、彼は怪訝そうに私を見遣った。
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