外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
見上げた奏介の横顔は、すっかりいつもの大人でクールな弁護士の表情だったけれど、あんなに感情を迸らせて言ってくれた本心を忘れるなんてできない。


「奏介、一緒に帰ろう?」


私は奏介の上擦る声を遮って、お腹に回した腕を解いた。
そのまま、書棚と奏介の間のわずかな隙間に身を滑らせる。
書棚に背を預け、まっすぐ顎を上げて彼を見つめた。


奏介はよほど動揺しているのか、まだ顔を手で隠している。
私はその手をそっと掴んでどかし、彼の顔を覗き込んだ。


「あの……疲れからの煩悩でも、嬉しいから」

「七瀬?」

「言ったでしょう? なんでも言ってって。……だから、煩悩でも心の声でも、奏介の本心はすごく嬉しい」


目を細めて微笑んでみせると、奏介はどこか居心地悪そうに、つっと視線を横に流した。
なにか言いたげに唇を薄く開き、結局なにも言わないまま閉じる。
そして、少し乱れた前髪をちょっと乱暴に掻き上げた。


「……引かれたかと、思った」


私から目を逸らしたまま、ポツリと呟く。


「もっといちゃいちゃが?」

「それは本当に聞かなかったことにしてくれ」


きっと、それは本当に失言だったのだろう。
クスッと笑う私に、奏介はくるっと背を向けた。
小さく肩を落とし、ハッと短く浅い息を吐く。
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