外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
どういう意味かよくわからず、私は目を瞬かせながら聞き返した。
彼は柄杓で湯を掬い、ゆっくり茶器に注ぎ入れている。


「特に、体験教室に来る女性の場合、たいてい俺の手元よりも顔を見る。で、だいたいの場合はポーッとしてるから、茶筅を動かす手元なんかに視線を感じないね」

「……はあ」


要は、『お教室を訪れる女性初心者の多くは、藤悟さんの顔に見惚れている』ということなんだろう。
それをシレッと言われても、どう反応していいのかわからず、私は返事を濁した。


「でも、七瀬さんは俺の手元をジッと見つめて、『無』になってるのが感じられた」

「無?」


唇をすぼめるようにして聞き返す。
藤悟さんは「そう」と短い返事をしてから、再び茶筅を手にした。
そして、シャカシャカとリズミカルに動かし始める。
私は先ほどと同じように、その手の動きを注視した。


「茶道は、室町時代に千利休が興してから、長い歴史の間親しまれ続けた、日本が誇るべき伝統だ。七瀬さんのように心も頭も真っ白に洗われ、『無』の状態で向き合ってもらえるのは、伝統を後世に受け継ぐ家に生まれた次期当主として、教えがいがあって嬉しい」


メレンゲを泡立てるように茶筅が動く。
徐々にゆっくりした動きに変わってくると、茶器の中の抹茶は、先ほど私がいただいたのと同じくらい、きめ細かい泡が立っていた。
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