扉の向こうはいつも雨
「蒼様……。」

「ハハッ。そっちの名前で呼ばれるのは久しぶりだな。」

 本当に……同一人物だったんだ。

 目に入れていたコンタクトは特殊なカラーコンタクトのようで、両眼は濃い茶色に変わっていた。

「どうして……だって名前……。」

「偽名だよ。
 響きがかっこいいなぁって呼ばれるなら春日部っていいでしょ?」

 宗一郎は笑った。
 けれどその瞳の奥は笑っていない。
 そう思うのは瞳の色が変わったせいじゃない。

「かっこいいって……だって……。」

 宗一郎は桃香の言葉を遮って続けた。

「あとは名前の『そう』だけ合わせれば自分も呼ばれて間違えにくいかなって。」

 そんなことを聞きたいわけじゃない。
 微笑みを浮かべながら話す宗一郎が遠く感じる。

「どうして隠して職場にいたんですか?」

「外に行くにはあの目じゃ行けないから。
 というわけで買い物へ行ってくるよ。」

 はぐらかされて肝心なことは言ってくれない。
 急に2人の間に線を引かれ分断されたのが分かった。

 思い過ごしじゃないと分かってきた、たまに纏う悲しそうな空気。
 それを感じて宗一郎の服の袖をつかんだ。

「行っちゃ、ダメです。」

 出てきた言葉は駄々っ子みたいな台詞で自分でも何が言いたいのかもどかしい。

「食材を買ってくるだけ。
 戻ってくるから。」

 つかんだ服は手からすり抜けて宗一郎は出て行ってしまった。

 ただ呆然と、出て行った扉をただ見ていることしか出来なかった。





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