扉の向こうはいつも雨
 押し退けて離れていく手。

 それをつかんで引っ張った。
 声には出なかった「え?」という顔の宗一郎を視界にとらえたような気がする。

 そして大きな口を開けた。

「痛っ。」

 掌のちょっど親指と人差し指の間ぐらいに開けた口を当てて咬みついた。
 薄くついた歯形を離れていく手に確認して満足気に微笑む。

「これで同じです。」

「同じって………。」

 手を引っ込めた宗一郎が揺れる瞳で桃香の腕に視線を移した。

 腕には塚田に処置してもらった包帯が巻かれている。
 包帯なんて大袈裟な、と思ったけれど視覚的にこれで良かった。
 桃香もそしてきっと宗一郎も。

「同じには、ならないと思う。」

 こうべを垂れて再び頭を抱える宗一郎に言葉を重ねた。

「出ていけって言われてもここにいます。」

「………迷惑だ。」

「大丈夫です。今度、咬みつかれそうになったら平手打ちします。」

 やっと上げた顔は面食らった顔をしていて、それから苦笑いを浮かべた。

「平手打ちは痛いだろうね。」

「痛いに決まってます。」
 
 膝を抱えた宗一郎は小さな子どもみたいに膝に腕を置き、その上に頬を乗せた。

「そのくらい平気に決まってるよ。」

 試されている気もして、半分は意地になっていた。
 だから引かずに返した。

「スタンガン当てますか?」

「スタンガンとはずいぶん物騒だ。」

 苦笑した宗一郎に続けた。

「食べればいいってもう言いません。
 咬みつかれそうになったら全力で阻止します。
 だからここに置いてください。」

 無言になった宗一郎は何か考えているのか、抱えた膝に顔を埋めた。
 それから低くはっきりとした声で告げた。

「僕の本性はあんなもんじゃないんだよ?」

 しめやかに確認し合う恐怖。
 扉を隔てて食べられるかもしれない側と食べてしまうかもしれない側。
 扉1つ隔てただけの同じ恐怖。




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