扉の向こうはいつも雨
 不意にいつものように唇に何かが触れた。
 優しい触れ方は桃香の心を苛立たせた。
 どうせならひと思いに………。

 唇の隙間から相手の『味』がして現実だと思い知る。

 味って……どっちが味見しているのか。

 そのせいで蒼様かもしれないという夢見心地な思いは粉々に打ち砕かれて恐怖が再び心を支配した。

 いつもと同じ人なのだ。
 蒼様に似てるなんてなんの因果なのかと宿命を呪った。

 いつもと違うのは一向に終わらないこと。
 それに触れたのは唇だけじゃなく頭に手を添えられて引き寄せられた。

 自分では体のいうことを聞かせられられなくて相手の思うまま……。

 しばらくして、離された唇が合図のようにその場に崩れ落ちた。

 口から生気を吸うことが人を食べるってことなのかな。
 そしたら私は干からびたミイラみたいになるのかな。

 ……どっちでもいいから、痛くない方を希望したい!

 顎を持ち上げられて上を向かせられると、目が合った。

 透き通るような澄んだブルーと何もかもを射抜く曇りのない薄いブラウンの瞳。
 その瞳から目が離せなくて、つい口からこぼれた言葉。

「……………綺麗。」

 見開かれた瞳は驚きを映し、それから悲しい色を映した。
 もしかして……本当に慈悲深い人だったり……しないよね。

 ゆっくりと桃香へ覆い被さるように上に……。

 あぁ。食べられる。

 奥歯を噛み締めて、再び強く目を閉じた。
 痛くないといいな。痛い……だろうな。

 両腕をつかまれて、体を固くする。
 頬に息がかかって顔が近づいたのが分かった。
 心臓は壊れそうなほどに音を立てて、噛み締めていた歯は居場所を忘れたように離れて小刻みに音を立てた。





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