無題 〜奇跡の7つ子〜

「愛鳴兄さん…ホントにいいの？秘鳴姉さんにあんなことを言っても。」


俺が教室を出たあとに、後から、とーなが、言った。


「聞いてたのか。」


「もちろん。」

当たり前のように、笑われた。


「面白かったから、からかってやっただけだ。」


「それにしても、いい演技だったね。真面目顔になり、悔しそうにして、そんなに秘鳴姉さんが好きなの？」


自信満々に、とーなに言われた。
その言葉には、裏も表もない、言葉だった。


「違うよ。ただ、面白いって思っただけだから。」

「あ〜。そうなんだ。あ！今日のご飯、唐揚げだって！早く帰ろ！」


俺は、1回、教室に目をやった。
だけど、すぐに踵を返し、とーなの後を追って家に帰った。









あー。また、やってるよ。

「――ここまでは、俺が予想しただけだから、気をつけなよ。」


ほんと、懲りないなぁ。

教室から出てきた兄さんの顔は、赤く染まっていた。

そして僕を見た時に、すぐに顔の色を変えた。


「愛鳴兄さん……ホントにいいの？秘鳴姉さんにあんなこと言って。」

用意していたセリフを言う。


「聞いていたのか？」

「もちろん。」

当たり前にいう僕の顔を見て、兄さんは、眉を細めた。

「面白かったから、からかってやっただけだ。」


心にも思ってないことを言って、自分の気持ちを押し殺して、兄さんは、馬鹿だな。


「それにしても、いい演技だったね。真面目顔になり、悔しそうにして、そんなに秘鳴姉さんが好きなの？」

僕は、もう気付かないふりをしているのは、もう嫌だ。
あくまでも、気づかれないように、言った。僕が兄さんの気持ちに気づいてないように。慎重に。


「……違うよ。ただ、おもしろいっておもっただけだから」


2回も、繰り返して面白いって言った。

明らかに動揺している証拠だった。


「あ〜。そうなんだ。あ！今日のご飯、唐揚げだって！早く帰ろ！」

僕は、わざと無邪気に言ってみた。


僕は、先に走る。


兄さんは、1回、教室を確認してから、僕のあとについてきた。


……ほらやっぱり、好きなんじゃん。



ねぇ、兄さん知ってた？

好きな子は、いじめたくなるんだってこと。

それは、自分の気持ちを相手に知られたくないからなんだって。

だけど、反対に、自分の気持ちを気づいてくれなくてもどかしいって言うのもあるんだってさ。

兄さんのは、まさにそれだよ。


僕は、そう思いながら、家に帰った。