お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
八畳ほどの個室はコの字型のソファとテーブルが設置されていて、ドア近くに座る私の隣は成田さん。

班が違うためこの場にはいないが、“粉かけ小南ちゃん”に狙われている、爽やかで実力のある営業マンだ。

年が近いこともあって彼とは話しやすく、隣にいてくれるのはありがたい。

選曲用のリモコンが回ってくるたびに、内心『歌いたくないな……』と思っていたら、彼が笑顔で話しかけてきた。


「織部さん、一緒に歌おうよ。デュエット曲じゃなくて、ひとりボーカルの曲を。なにがいい?」


カラオケが苦痛だという気持ちは顔に出していないつもりでいたのに、どうやら気づかれたみたい。

ふたりで同じメロディを歌えば、下手さは多少ごまかせる。

気遣い溢れた申し出に、ありがたいような申し訳ないような気持ちで頷き、彼と一緒にリモコンの画面を見る。

ふたりで歌えそうな曲を探しながら、『これが彰人だったら……』と考えていた。


不遜な彼なら、成田さんのように気遣ってはくれないはず。

仮に私から一緒に歌ってほしいと頼んだとしても、『俺を頼るな。自分の力でなんとかしろ』と突き放しそう。

同居して間もない頃、製品開発部に異動させてほしいと頼んだ時のように。

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