お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
今は四十代の係長がマイクを握っていて、隣との会話がしづらいほどの声量で、ノリのいい曲を歌っている。

そのため私の呟きを聞き間違えてくれたのはありがたいが、上司や先輩同僚とのカラオケに『飽きた』と言ったと思われるのもまずいと慌てていた。


結局うまい言い訳が見つからず、「すみません」とばつの悪い思いで謝れば、成田さんがクスリと笑う。

さらに声量を上げて気分よさそうにサビに突入した係長の方をチラリと見てから、彼は私に顔を寄せて言った。


「ふたりで抜けようか。俺もカラオケ飽きた。というより、耳が痛くなって正直きつい」


ここから逃げたい気持ちはあっても、無理ではないかと私は思う。

九人しかいない中で二人同時に退席しようとすれば、まだ帰るなと引き止められることは想像に容易い。

トイレと偽ってひとりずつ抜けたとしても、帰ったことに気づかれた時に、私たちの印象が悪くなる。

後々の仕事に悪影響を及ぼさないためにも、終了まで我慢するべきではないだろうか。

二時間で借りている部屋なので、誰かが延長と言いださない限り、後二十分ほどでお開きとなるはずだし。

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