お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
カラオケ店から外へと飛び出しても、まだ彼は私を引っ張って夜道を駆け、ネオン輝く繁華街の赤信号でやっと足を止めた。


息を乱した私が、「成田さん、どういうことですか? さっきのは冗談ですよね?」と聞いたのは、これまでただの先輩後輩という関係を続けてきて、ふたりきりでの食事やデートに誘われたことがないためだ。

すると彼は探るような目で私を見てから、少し笑って「半分本気」と答えた。


「半分? え?」


ますますわからなくて眉をひそめても、彼の微笑みは崩れない。

繋いでいる私の手を離し、カラオケ店では脱いでいた薄手のジャケットを羽織ると、軽い口調で言う。


「織部さんが入社してきた時、可愛い子が入ってラッキーだと思ってたんだ。同じチームだし、仲良くなれるかもと期待してた。でも織部さん、あの時は彼氏持ちだっただろ?」

「はい……」


学生時代から交際していた元彼とは、社会人になってすれ違うようになり、別れてしまった。

お互いに恋人関係を続けようと努力しなかったのは、そこまでの愛情がなかったためだと思っている。

それが社会人一年目の秋のことで、成田さんに元彼の話をしたことがあっただろうか?と考えてみたが、思い当たらなかった。

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