お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
私の足がピタリと止まる。

三十メートルほど先に、どぎついピンク色のネオンが見えた。

この先のエリアに足を踏み入れたことはないけれど、ラブホテル街であることは知識として頭にあった。


もしかして、私を連れ込もうと企んでいるの……?


私の一歩先で足を止めた彼が振り向いて、「どうした?」とキョトンとして問う。

その表情に腹黒さは感じられないが、無言で疑惑の眼差しを向けていたら、「あっ」と気づいた様子の彼が慌てて弁解する。


「違うよ。ラブホには行かないから安心して。ほら、二軒先のビルの二階にワインバーの看板が見えるだろ? 目的はあの店だよ」


彼の指差す方へ視線を向ければ、確かに白地に赤紫色の文字で【ワインバー・アルゴ】と書かれた看板が見える。

ホッと緊張を解いた私は、「誤解してすみません」と謝った。


よく考えれば、行きずりの関係ではなく同僚なのだから、無理やり連れ込めば、彼にもリスクがある。

それに職場での彼は誠実で卑怯なことをする男性ではないと知っているのに、疑ってしまったことを反省していた。
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