お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
大会議室のドアを出た一歩目で足を止めた私は、軽く頭を下げる。

その前を彼が悠々と通り過ぎ、私たちが言葉を交わすことはない。

それはもちろん、ただの専務と末端社員以上の関係があると、周囲に気づかれないためである。


頭を上げ、私から離れていく彼の背中を見た。

すると頭に、クスノキ食堂で茜に言われた『相性』という言葉が浮かんでくる。

喧嘩するほど相性がいい。

そんなおかしな考え方を彰人にぶつけたら、彼はなんと答えるだろう。

『アホか』と呆れるか、『お前の脳みそは腐ってんな』と侮辱されるか、もしくは、しめしめとニヤリとするかもしれない。


同居に至った原因は、彼のプライドの高さにある。

女から見合いを断られた形になるのは許せないので、同居生活で私を彼に惚れさせ、その上で振ってやるというのだ。

その狙いを考えれば、『相性がいい』という私からの好意的な言葉に、喜ぶ可能性もある気がした。


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