お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
そう思って大きなスーツの背中を見送っていたら、私たちの距離が四メートルほど開いたところで、資料を持つ彼の左手から用紙が一枚抜け落ちた。

彼がそれに気づく様子はなく、思わず私は反射的に、「彰人、資料が落ちたよ!」と声をかけてしまう。

言ってしまってからハッとして口に手を当てたが、もう遅い。

足を止めて勢いよく振り向いた彼の眉間には、深い皺が刻まれ、文句を言いたそうに睨まれた。


落ちた用紙は彼の隣を歩いていた他部署の部長が拾い、自分より二十以上若そうな彰人の顔色を窺うようにして、手渡している。

「専務、どうぞ」と言った後に、チラリと私に懐疑的な視線を投げかけるから、これはマズイと焦りが加速した。


どうしようとうろたえ、ごまかすべきかと考えたが、なにを言い訳しても余計に疑われそうな気もして、口を開かないという選択をする。

ふたりに向けて一礼した私は、背を向けて逃げるように立ち去る。

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