お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
負けという言葉に反応し、ピクリと眉を動かした彼は一層睨んでくる。

勝負事には勝たねば気がすまない性分なのが、よくわかる。

口論の勝者は私かと思ってニンマリし、彼に横顔を見せながらドアノブに手をかけた。


「じゃ、私は営業部に戻るから」と、勝利に気をよくして引き揚げようとしたのだが、ドアは開かない。

斜め上を見れば、彰人が片腕に体重をのせて押さえていた。


「え?」と戸惑う私は、肩を押されて背中をドアに押しつけられる。

もう一方の彼の腕も、私の顔の横に突き立てられ、囲われてしまった。


「な、なにすんのよ……」と、上擦る声で非難すると、彼がニヤリと口の端をつり上げる。


「女扱いしてほしいんだろ? お前が言ったんだ。逃げるなよ」


突き立てた両腕の肘を曲げ、彼は私との距離を詰める。

端正な顔を斜めに傾け、ゆっくりと唇を近づけてくるから、私は目を見開いた。


まさか……キスしようとしてるの!?


『ひとりの女性として扱え』と言ったことは、もう少し紳士的に対応してほしいという意味であり、迫ってほしいわけではない。

なんて誤解をするのよ……いや、そうではなく、私を焦らせようとして、わざとやっている気もする。

その不遜な笑みに、形勢逆転を狙う意地悪さが表れているからだ。


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