お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
夕食の約束をして、今度こそ専務室から出ようとドアを開ける。

廊下が無人であることを確認してから、足を踏み出そうとしたが、その前に「莉子」と呼び止められた。


肩越しに顔だけ振り向けば、ブラインド越しに届く日差しが眩しいのか、彼は目を細めて私を見ている。


「豚骨スープの店と、鶏ガラと魚介系のブレンドスープの店、どっちがいい?」

「え、えーと、どっちでもいい。彰人が好きな方でーー」

「お前の好みに合わせたい。俺が帰るまでに決めておけ」


「うん」と返事をして廊下に出ると、ドアを閉めた。

専務室と書かれたプレートを見つめ、すぐに立ち去ることができずにいる私の頬は、心なしか熱い。


彰人に莉子と呼ばれたのは、初めて。

ちょっと嬉しいかも……。


約束して、ふたりで出かけるのも初めてだ。

それが近所のラーメン屋であっても、なぜか心が浮き足立ち、鼓動が二割り増しで高鳴っている。

どうして、こんな気分に……?


彼との距離が縮まった気がして、それを喜ぶ自分を感じていた。

けれども「変なの……」と呟いただけで、心境の変化については深く掘り下げないように努める。

万が一でも、これが恋の始まりだなどと勘違いしないようにするためだ。


彼に惚れたら、私が負けてしまう。

彰人に影響され、この同居を、彼との勝負事のように捉えていた。


なるべく彼を異性として意識しないように……。

そう自分に注意を与えた後は、誰かと廊下で鉢合わせないうちにと、エレベーターの方へ急ぐ。

心が弾むのは、夕食にラーメンを食べることが楽しみであるからだと結論付けることにした。

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