お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
それは独り言のようにも聞こえたが、一応足を止めて振り返る。


彰人は腕組みをして首を傾げ、なにかを考えているような顔をしていた。

そして頭の傾きを戻してから、「やっぱり、この部屋でふたりきりの時は名前で呼んでくれ。敬語もいらない」と意見を変えられた。


「え、なんで?」

「お前に丁寧な対応をされると違和感を覚える。背中がむず痒くなり、俺の部屋なのになぜか居心地が悪い。だから、ここでだけは許してやる」

「はあ……」


生返事をした理由は、『許されても、ここに来る機会はもうないよね?』と思っているせいだ。

私たちの関係を知られたくないのなら、呼び出さない方がいいはずである。


そんな私の気持ちを読まない彼は、デスクトップのパソコンに向かってマウスを操り、仕事に戻りながら、ごく普通の口調で家庭的な連絡事項を口にした。


「今日はそんなにやることがないから、二十時前には帰れると思う。お前が待っていられるなら、ラーメン食いに行かないか? 今日はそんな気分なんだ」


ラーメン……その庶民的な響きは、若くして専務の椅子に座る御曹司の彼に似合わない。

でもそれは私の大好物であるため、「うん、待ってる!」とふたつ返事で頷いた。
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