イジワル上司にまるごと愛されてます
 柊哉は来海を支えるように腰に手を回した。大きな手のひらが触れて、来海の心臓がドキンと跳ねる。

「ほら、寄りかかってろ」

 柊哉は来海をそっと引き寄せた。

「あ、りがと」

 来海はなんでもないふうにそう言ったが、スーツ越しに感じる柊哉の体温に胸が締めつけられた。ペンを貸し借りしたりしたときにかすかに触れるような指先の温もりとは、ぜんぜん違う。

(もっと触れたいって……思ってしまう)

 来海は柊哉のスーツの背中に手を回した。筋肉質でがっしりしていて……男性なのだ、と改めて思うと、鼓動が高くなる。

「タクシーで帰る方がいいだろうな」

 大通りで柊哉がタクシーを止めて、来海を支えながら後部座席に一緒に乗り込んだ。来海は住所を伝えて、ふらふらする頭を窓ガラスにもたせかけた。

「もたれるなら俺にしろ。窓ガラスだと車の振動が伝わってしんどくなる」

 柊哉が来海の肩に手を回し、ぐいっと引き寄せた。来海の肩が彼の肩に触れ、ふと左側を見ると、すぐそばに心配そうな柊哉の顔がある。
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