イジワル上司にまるごと愛されてます
 お姫さまだっこなどされたことがなく――というより男性に抱き上げられたことがなく――来海は心許ない気持ちで柊哉を見上げた。

「柊哉」

 彼の名前を呼んだ直後、唇をキスで塞がれた。唇をはまれて、触れ合う温もりに意識が集中する。不安と緊張に、今度は期待というドキドキが加わって、鼓動がどうしようもなく高くなる。

 壁際のベッドに運ばれ、そっと下ろされて、背中に冷たいシーツを感じる間もなく、柊哉が覆い被さった。

「来海」

 柊哉は来海の顔の両横に肘をついて、来海の髪を愛おしむように撫でた。そうしてゆっくりと唇を押しつける。

 髪に触れていた柊哉の手が後頭部に回され、柊哉の舌が来海の唇に触れた。まるで催促するように唇の隙間をなぞられ、来海は小さく唇を開いた。柊哉の舌が来海の口内に差し入れられ、キスがぐっと深くなる。溺れそうな激しいキスに、息が止まりそうだ。

「来海」

 柊哉が唇を離し、来海は大きく息を吸い込んだ。

「は……っ……な、に」

 来海の潤んだ瞳を見て、柊哉が小さく微笑む。
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