イジワル上司にまるごと愛されてます
 真子が悲しそうに言った。彼女のデスクの仕切りには、シンガポール支社から送られてきた、伝統的な織物を織るツェリンたち女性グループの写真が貼られている。ツェリンは来海と同世代なのに、夫が病死したため、一人で五人の子どもを養っている、という話だった。

(なんとか……したい)

 来海は緊張で鼓動が速くなるのを感じた。

 英語は苦手だ。だけど、あんなに乗り気だったツェリンともう一度話がしたい。

(『なにもしなければなにも変わらない』。やらないよりはやる方がいい)

 来海は気持ちを固めて受話器を手に取った。

「ツェリンに電話してみる」

 来海は真子と浩斗を見た。

「お願いします!」

 二人の声を聞きながら、来海はツェリンのメールに書かれている番号に国際電話をかける。番号をプッシュする指先が、緊張で震えた。

 数回の呼び出し音のあと、女性の声が聞こえてくる。

「ハロー」
「ハ、ハロー。ディス・イズ・クルミ・ナナセ、フロム・フィーカ・コーポレーション。あー……アイ・ハブ・ジャスト・レシーブド・ユア・イーメール……」
「オー、ミズ・クルミ・ナナセ」
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