イジワル上司にまるごと愛されてます
 慣れない英語での電話に、来海の耳に心臓の音が大きく響く。それでも、この取引をまとめたい一心で、英語で話を続ける。

『前回はとても乗り気なお返事をいただいたのですが、今回、取引が難しいとのメールをいただきました。今回お電話したのは、問題や気がかりな点があれば、教えていただきたいと思ったからなのです』
『あー……』

 ツェリンが迷っているようなので、来海はできるだけフレンドリーに話しかける。

『なにか心配事があったら、ぜひ相談してください。みんなにとってプラスになるよう、一緒に考えて、解決したいのです』
『実は……』

 ツェリンがゆっくりとした英語で話し出した。彼女の説明によると、フィーカが資金を提供し、現地NGOと共同で実施する職人養成プロジェクトに、若い女性の希望者が一人しかいないのだという。

『せっかく技術を学んでも、生かせる場がないと思っている人が多いようなのです。このままでは伝統産業が廃れてしまうのですが……』
『それなら、やっぱり定期的にうちに輸出してみませんか? 短期的ではなく長期的な取引ができれば、若い女性たちにとって、技術を生かせる機会につながると思います』
『でも、私たちのような途上国の零細作家の手工芸品が、本当に日本で受け入れられるのでしょうか?』
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