蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
そんなことを言われた佳一郎さんが兄を見て眉を潜めていると、「おい、花澄」と父が私を呼んだ。
「お前も乗っていくか? たまには一緒に出勤するのもいいだろう」
父は自分が今から乗り込む車を指さし、探るような目つきで私の顔を見た。
「ありがとう……でも、やめておきます」
せっかく誘ってくれたのに断るのは申し訳なく思うけれど、昨日の水岡先輩のことがまだ少し心に引っかかっているため、出来るだけ父と一緒にいるところを社員に見られたくないと思ってしまったのだ。
「そうか」と父が寂しげに呟いたことに、胸がチクリと痛んだ。
「花澄に聞きたいことがあったのだが……」
「私に? 何?」
目を大きくさせて父の言葉の続きを待てば、父は兄と佳一郎さんに気まずそうな視線を送ってから、切なげな顔で口を開いた。
「花澄にお付き合いしている男性がいると聞いたのだが、それは本当なのか?」
驚きで足が後退し、私は再びタヌキの置物に身体をぶつけ、よろめいてしまう。
なんとかそれにしがみつき難を逃れたが、父の追求の眼差しからは逃げられそうにもなかった。
「花澄、どうなんだ? いるのか? いないのか? 怒らないから本当のことを言いなさい」