蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~

妙な迫力を纏いながら迫ってくる父に涙目になりながら、私は助けを求めるべく兄と佳一郎さんを見た。


「おい、花澄。付き合っている男がいるなら俺にもちゃんと紹介しろよ」

「花澄さんが選んだならば、きっと素敵な方に違いありませんね。いったいどんな男性なのでしょう」


しかしふたりは以前も聞いたような文言を並べるだけで、助け船を出すどころか無関係の顔をした。

佳一郎さんにははぐらかされてしまったため、父の質問に対し「います」とは言い難いし、かと言って彼を目の前にして「いません」とも言い辛い。

佳一郎さんに涙目で抗議すれば、彼はふっと笑みを浮かべて、腕時計へと視線を落とした。


「社長。このままでは花澄さんが遅刻してしまいます。それに大切なことなのですから、こんな場所で慌ただしくお聞きになるよりも、また時間があるときに改めてお話される方がよろしいのでは?」

「あぁ、まぁ。そうだな。本当に彼氏がいるというのなら、どんな男なのかじっくりと話を聞きたいし……いや、出来れば相手の男も呼んで、花澄に対する気持ちもちゃんと聞いておくべきかもしれないな」


父が引きさがってくれたことにホッとし、タヌキにしがみついたまま石畳の上にぺたりと座り込めば、そんな私を見て兄が苦笑いをした。


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