蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
「花澄への気持ちか……本当にあれのどこに惚れたんだか」
からかい交じりの兄の言葉は、私というよりは兄のすぐ傍に立っている佳一郎さんへと向けられたように思えた。
佳一郎さんも私と同じように感じたらしく、ちらりと兄を一瞥したのち私へと歩み寄り、すっと手を差し伸べてくれた。
「立てますか?」
「は、はい」
その手に自分の手を重ね置けば、彼の温もりが私の中にじわりと染み込んでくる。
「どこに惚れたか。それは花澄さんのすべてに、でしょうね」
言葉にどきりとすると同時にぎゅっと力強く手を掴まれ、私はいとも簡単に佳一郎さんに引き起こされてしまった。
「幼いころから花澄さんと一緒にいる副社長なら、改めて言われなくとも、その魅力はじゅうぶんお分かりになっていると思いますが」
佳一郎さんは私の手を離さず、そして目を見つめたまま、兄に向けてそう言った。
頬が熱くなってしまった私から斜め下へとそっと視線を落とし、佳一郎さんは言葉を続ける。
「副社長。こちらもそろそろ出発の時間です。お喋りもこのくらいにして……あ、副社長ではなくタヌキ様でしたか。失礼いたしました」
「佳一郎、お前まで……ったく、行くぞ」