蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~

兄は佳一郎さんに背を向けて、自分たちを待っている車へと先に向かっていってしまう。


「それではまた」


一方、佳一郎さんは置き去りにされたことを気にする様子もなく、私と父に綺麗なお辞儀をして、颯爽とした足取りでこの場を離れていった。


「中條君、今のはまるで……いや……でも……」


佳一郎さんの私への褒め言葉を聞き、父もまさかと勘付いてしまったようだった。

何か聞きたそうな顔で私をじっと見つめてきた。


「……花澄、もしかして」

「遅刻しちゃう! 大変だ! 行ってきます!」


父にその先を言わせないように声を大きくして強引に言葉を遮り、私も小走りで石畳を進み出す。

悲しげな声で父に「花澄」と呼ばれ、心の中でごめんなさいと謝りつつも、振り返ることはせずに前へと必死に進んでいく。

家を出る途中、ちらりと兄たちの方を見れば、ちょうど車に乗り込もうとしている佳一郎さんと目が合った。

にこりと笑いかければ、彼がいつもより表情を柔らかくさせた。


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