蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
「マイナス三十点! 中條君は厳しいなぁ……いや、花澄。お前も確かにぼんやりしていたな。もう少し気を引き締めるんだぞ」
朗らかさから厳しさへと声色を変化させながら、父は社の中へと入っていった。
お父さんにまで怒られてしまったと涙目になりながらその背中を見送っていると、ちょうど父と入れ替わる様に秘書の女性がやって来た。
一度立ち止まり、完璧な角度で父にお辞儀をしてから、その女性は小走りでこちらにやってくる。
「どうしました?」
彼もすぐに気付き、秘書の女性に向かって歩き出した。
「いいなぁ。私も中條さんにマイナス三十点って叱られたい」
私を肘で突っつきながら、少し離れたところで話をしている彼へと久津間さんは熱い視線を向けている。
さきほど私に厳しい点数をくだした彼は、中條佳一郎(なかじょうけいいちろう)。倉渕物産副社長であるお兄ちゃんの秘書をしている。
三十六歳の彼には二十七歳の私が何もできない子供のように見えているようで、いつもこんな感じであれこれ注意してくるのだ。
「はぁ。ミステリアスで格好良い」
「え? 毒舌で超怖いの間違いでは?」