蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~

私に向かって伸ばされた水岡先輩の手に身体を強張らせた瞬間、パチンと小気味よい音が響き渡った。

中條さんに手加減なく手を払い落とされ、水岡先輩が痛みで顔を歪めている。


「もう二度と、その汚い手で花澄さんに触れないでいただきたい」


怒りを宿した彼の声と、ほんの一瞬私を強く抱きしめた彼の手に、どきりと鼓動が跳ねた。

常に冷静な彼が感情を露わにさせていることに驚くと同時に、まるで私を大切に思っているかのようにも聞こえる言葉と態度にさらに顔が熱くなっていく。

抱き寄せる温かな手、背中から伝わってくる彼の熱や、わずかに聞こえる呼吸音。

中條さんのすべてを意識してしまえば、落ち着くことなどできるはずがない。

水岡先輩は中條さんの鋭い声音に返す言葉を失っていたけれど、何かに気付いたように眉根を寄せた。


「……あ、あなた確か……昼間、倉渕物産の受付前で、会いましたよね?」


疑問を受け、中條さんは私から手を離した。

そして私の横へと移動し、ひんやりとした眼差しを水岡先輩に向ける。


「えぇ、会いました。確かあなたは、倉渕物産の受付で堂々と花澄さんを口説いておられましたね。訪問先であのようなことは慎んだ方がよろしいかと」



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