蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
そう気付いてからは、中條さんに注意されるたび、中條さんと秘書の方たちが穏やかな様子で会話をしているのを見かけるたび、切なさでちくりと胸が痛むのだ。
エレベーターの開閉する音を耳で拾い、私は俯きがちだった顔をあげ笑顔を作った。
予想通りエレベーターホールから受付前へと姿を見せた来客に向けて、私は会釈をする。
「いらっしゃいませ」
真新しさを感じさせるスーツに身を包んだ若い男性が、受付カウンターの前で立ち止まり、軽く頭を下げ返してくる。
「ミズタデザインの水岡(みずおか)と申します。営業部の刈谷(かりや)さんはいらっしゃいますか?」
「営業部の刈谷ですね。恐れ入りますが、お約束はいただいておりましたでしょうか?」
男性は「はい。今日の十四時に」と返事をしたあと、ほほ笑む私を見つめたまま動きを止め、瞬きを繰り返した。
「……花澄ちゃん?」
親しげに名を呼ばれてしまえば、今度は私が目を大きくさせる番となる。
先ほど聞いた水岡という名前には覚えがあった。学生の頃の記憶と目の前の彼を重ね合わせながら、私はゆっくりと口を開く。
「もしかして、水岡先輩ですか? サッカー部だった」