蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
行き場を失ってしまった苛立ちに翻弄され、私は何度もため息をつきながら、重く感じる足をなんとか前へと動かした。
バッグの中から掴み取ったスマホへと視線を落とし、中條さんの電話番号を表示させる。
震える指先で画面をタップし、すがるような気持ちでスマホを耳に押し当てた。
中條さんの声が聞きたい。
聞きなれたその冷静な声音で、私を日常に引き戻して欲しい。
「花澄さん?」
コール音が三回鳴った所で、中條さんに繋がった。ひどくホッとし、涙が込み上げてくる。
「中條さん……あの……」
つい電話をかけてしまったけれど、どんな言葉を続けるべきか迷ってしまう。
「どうかされましたか?」
心配そうに、けど落ち着いた口調で優しく問いかけられると、ふっと言いたい言葉が頭に浮かんできた。
“中條さんに会いたい”
私にそんなことを言われたら中條さんは困ってしまうかもしれないけれど、少しの時間で良いから傍にいて欲しい。
勇気を振り絞り気持ちを言葉にしようとした瞬間、「佳一郎さん」と女性の甘える声が聞こえた。
聞き間違いだと思いたかったけれど、同じ声が再び彼の名前を呼ぶ。