蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~

中條さんは今、女の人と一緒にいる。

社内で中條さんが下の名前で呼ばれているのを聞いたことがない上に、電話の向こうから車のクラクションもはっきり聞こえてきた。

女性とふたり、夜の街で仲良くデートでもしているのかもしれない。

そんな風に考えてしまえば、足元がぐらりと揺れた。

目を閉じぎゅっと唇を噛んだのち……私は必死に笑顔を作る。


「……じっ、実は! お兄ちゃんに電話を掛けるつもりが、間違って中條さんにかけてしまったみたいで。変なタイミングでかけてしまって本当にごめんなさい!……失礼します!」

「花澄さん!?」


通話を一方的に切ってスマホをぎゅっと握りしめると、涙がひとしずく流れ落ちていった。

さっきの女性は中條さんとどんな関係なのだろうか。

もしかしたら私は……失恋してしまったのかもしれない。

呆然としている私の手の中で、スマホが音を奏でた。

中條さんからの着信に一瞬だけ胸が高鳴ったけれど、電話にでることはできなかった。

涙が溢れて止まらなくなってしまったこの状態で彼と話をしたくないし、女性の声をまた聞くことになれば嫉妬で胸が張り裂けてしまう気がした。


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