SKETCH BOOK
「さ、梓。降りて」
「うん」
車から降りて、荷物を持つ。
見上げるほど大きな家は、
少しだけ違和感を感じた。
中に入ると、男の人が顔を出した。
メガネをかけていて、少し物腰の
柔らかそうなそんな人だった。
この人が新しいお父さん?
何はともあれ、結構いい人
見つけたんだなぁ。お母さんは。
「初めまして。梓ちゃん」
「は、初めまして。百瀬梓です」
「いやだ梓。もう百瀬じゃないのよ?」
「……じゃあ桜田梓です」
お母さんの旧姓で名乗ると、男の人は笑った。
「よろしく、梓ちゃん。
俺のことは好きに呼んでいいよ」
「康介さん、優しいのね、
こんな娘でごめんなさいね」
こんなとは何よ。
こんなとは。
康介と呼ばれた男の人が、
どうやらあたしの新しいお父さんらしい。
いい人そうだなぁ。
でも、絶対にお父さんなんて呼ばない。
呼ぶとすれば……。
「よろしく、パパ」
パパと挨拶を交わすと、
荷物運びを手伝ってくれた。
荷物はすぐに運び終わって、
あたしは自分の部屋となる空間で一人、
ベッドに身を投げていた。
これからはここが家なんだ。
確かに学校から近くて便利だけれど、
あたしはお父さんがいるあの家が良かったなあ。
どうして二人の仲は修復できなかったんだろう。
あたしが出来ることはあったのかな?
ないんだろうなぁ……。