SKETCH BOOK



書斎から飛び出すと
ドアを思い切り強く閉めた。


部屋の向こうで、
ギィッと椅子の音がした。


本当に、本当にこれで終わりなんだ。


もうこの人は、
あたしのお父さんじゃなくなるんだ。


そう思うとまた涙が込み上げてくる。


腕で涙を拭うと、
段ボール箱を抱えて家を出た。


「ママ、ちょっともう一度
 家を見てくるから、梓は車で待っていなさい」


「……はぁい」



適当に返事をして助手席に座る。


あたしの荷物は多いけれど、
お母さんの荷物は数えるほどしかない。


生活感のないような気がする。




お母さんは、きっと
我慢していたんだろうな。


自分のことは後回しで、
あたしとお父さんのことを考えていたんだろうな。


そう思うと、この離婚も、
お母さんにとっては良かったのかもしれない。


「お待たせ」


少し経ってから、
お母さんが運転席へ乗り込んで来た。


「忘れ物はない?」


「ないよ」


「そ。じゃあ行きましょう!
 今度住む家は学校から近いわよ」


「ふーん」




正直どうでもいい。


近いとか遠いとか、
そんなの問題じゃない。


あたしが不安なのは、
ちゃんと新しいお父さんを


「お父さん」と呼べるかどうかなのよ。


しばらく走ると学校が見えて来て。


そこを通り過ぎて少し行ったところで、
お母さんは車を停めた。



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